ボリューム2
気分は相変わらずクソだ。
今の気分は退屈や怠惰なんて言葉じゃ到底説明出来ないほどの代物だ。
イヤホンを引き千切りたくなるほど音楽にも退屈している。
死んだ目をした学生や馬鹿なサラリーマンでごった返す地下通路を歩く。
どけよ、たらたら歩くんじゃねぇ
何人にも肩をぶつけて歩く。
The VerveのBitter sweet symphonyのミュージック・ビデオみたく、早足で歩く方が気分はいくらかマシだ。
電車に乗る。満員だ。
何匹もの豚が間の抜けた顔で吊革を掴んでいる。
優先座席に深く腰掛けているババアを退かす。
どけよ、てめえはまだ元気だろ。
オレは病んでるんだよ。
何がって、心に決まってんだろ。
次の駅で夫婦が隣に座って来た。
オレは音楽の音量を上げる。
横の男が音漏れを注意する。
オレはさらに音量を上げる。
てめえが耳を塞げ。
この世界は様々な音で溢れている。
コインロッカーベイビーズのハシは、テレビから聞こえる音は全部豚の鳴き声だと言っていた。
テレビの音だけじゃない。
うんざりするほど沢山の種類の音で溢れている。
しかもそれらはバキュームカーがボットン便所のクソを吸い上げる音と同じだ。
オレは、雨の音も風が吹く音も、波が岩に打ち付け砕ける音も、人間の喋る声も電車アナウンスも、睡眠薬を奥歯で噛み砕く音も、誰かの笑い声も鳴き声も、バスが発車するエンジン音も、聞きたくない。何も聞きたくないんだ。
怒りや羞恥心、嫉妬や欲望、様々な感情のエネルギーを司るボイラー室はすでにオーバーヒートしている。
もう何も考えられない。
帰り道に煙草を何本吸うかも考えられない。
あれから煙草を毎日1箱吸う。
すっかりヘビースモーカーになった。
親や兄弟もそのことはとっくに知っている。
香水も今日はつけなかった。
吊革を持つ作業服の男からはバキュームカーよりも酷い臭いがする。
そいつを殴りつけた。
どけよ。
自分の臭いぐらいてめえで調節しやがれ。
最寄駅に着いた。
停車のアナウンスも、豚がオレの陰口を話す声も聞こえない。
考えるのも面倒臭い。
帰り道、煙草は好きなだけ吸おう。