LIFE’S A BITCH

通学電車内の暇潰しっす

ホーム

駅のホームでタバコを吸う。電車が到着するまで3分あまりだ。

時刻は18時をとっくに回り、昨日から全学部の授業が始まったせいで駅のホームは帰りの電車を待つ学生で溢れている。

改札から100メートル離れた、ホームの一番端の簡易喫煙所スペースは分煙の意味を成していない。その直ぐ前にまで電車を待つ学生が列を作っているからだ。

俺の1メートル前で談笑する二人組の男の一人が俺の吐いた煙を顔に受けて嫌な顔をする。もう一人がそれに気づいて俺の方を一瞬見たあと視線をすぐに戻した。

各駅停車の普通電車は午後18時33分に到着予定で、左腕につけた腕時計は18時30分を指している。

よれたセカンドバッグを持った初老の男がスマホを弄りながら、黄色い点字ブロックの上を歩いて簡易喫煙所に近づいて来る。右のポケットから青いパッケージのタバコを取り出し、一本を咥えてライターで火をつける。電車が到着するまで2分あまり。半分も吸い切れぬ間に火を消さなければいけないだろうと俺は思った。

男は頻りにスマホの画面見つめている。何を見ているのか気になったが、俺の方からはスマホの画面は見えない。

急行電車が喧しいクラクションをホームに響かせながらものすごいスピードで通過する。窓からはスーツを着たサラリーマンが隣のサラリーマンとお互いの立ち位置を奪い合うようにして吊革に掴まっているのが見えた。

電車は一瞬で通過したので表情は確認できなかったが、あの男は死んだ目をしていたと思う。

前の男はタバコを吸うことも忘れてスマホの画面を見ている。左手でスマホを持ち、右手の人差し指と中指でタバコを挟みながら同じ手の親指で器用に画面をスクロールしている。男のスマホの画面から漏れる光がタバコの灰を黄色や赤に変える。

その男はタバコに火を付けてから一度も灰を落としていない。タバコの4分の1程が灰に変わったところで、今にも白い先端がぽろっと折れて画面に落ちそうだ。

ベージュのノースリーブに、膝の下まで伸びた紺色のスカートを履いた女が早歩きで通り過ぎる。ホームの一番端にある柵の前で足を止め、スマホを使って写真を撮っている。

まだ少し明るさの残った夕空が線路上に無数に伸びた鉄骨をシルエットに変え幻想的な光景を作っていた。女はそれを写真に残したかったのかもしれない。

オレンジと白のツートンカラーの、他のどの電車とも違う形のした、先頭車両が滑らかな曲線を描いた特急電車がさっきの急行よりも速いスピードで通過した。

俺の吐いた煙が大きく揺れ、二人組の男の方に流れる。女のスカートは風で少しはだけたが写真を撮るのをやめない。二人組の男の一人が俺の方を見て小さく舌打ちをした 。もう一人は気まずそうに下を向く。スマホを見ていた男が画面から視線を移しスカートの女の太ももを見つめる。電車の到着を知らせる放送が鳴る。女が振り返り列に向かって歩き始める。俺はタバコの火を消し、男は視線をスマホに戻す。男のタバコの灰が溢れ、スマホの液晶を白く汚していた。