LIFE’S A BITCH

通学電車内の暇潰しっす

Heroin

アルミ製のキャップをライターでジリジリと炙る。キャップの裏を煤で黒く汚しながら、スパチュラで丁寧に測ったシュガーが中でゆっくりと融けてゆくのを見つめた。堪らず脳汁が浸み出す。焦げ茶色の粉が融けて半分が透明な液体に変わるように、脳内の白質のちょうど半分が融けて脳汁に変わった。
テルモのプランジャーを押し込み、傾けたアルミ製のキャップの底に針を落とす。全て透明に変わった液体をシリンジ内に充填し、慎重に空気を逃した。
光沢の無い黒いゴムチューブを左肩に三度巻きつけ縛ったあと、アルコールの染み込んだコットンで腕を消毒した。

いよいよだぜ。

青く浮き出した静脈に照準を合わせる。FPSで200メートル先の敵の頭をスナイパーライフルで撃ち抜くのよりはずっと簡単だ。
いつもの3倍肥大した静脈に注射針がぬるっと突き刺さる。
親指と薬指でバレルを固定し、人差し指と中指で掴んだプランジャーをゆっくりと押し込んでゆく。
0に向かって目盛を通過していくガスケットを集中して見つめる。

ガスケットがシリンジの先に到達した頃、すっと目を瞑った。熱い。熱く煮えたぎった血液が左腕の血管を通って心臓を経由し、左心室から大動脈を通り脳へと急行する。100℃の血液はグツグツと沸騰しながら全身を駆け巡り表皮からは熱い湯気が立ち昇る。拡大した瞳孔は目の前でギラギラと光る無数の星を見つめ、身体は他の惑星に来たかの如く重く、ソファーに腰を減り込ませる。全ての臓器が熱く蒸気を上げながらヘロインを代謝するボイラー室に変わり、汽笛を鳴らしながら活発に躍動し始めた頃、200℃で沸騰する灼熱の血液は脳を灼き、真っ黒の煤が、頭蓋骨の裏側にその模様を映した。